(2015年9月2日解決)
事例概要
依頼者A(51才の男性、会社員)は、車両を運転していて、前車に続き停車していたところ、加害者B運転の車両に追突され、頚部捻挫の傷害を負った。
静岡自賠責損害調査事務所は、Aの後遺障害につき、14級9号(局部に神経症状を残すもの)と判断した。
当事務所は、Aの頚椎MRIの画像診断を求めたところ、C放射線診断専門医は、C5/6に椎間板ヘルニアがあると判断した。
当事務所は、Aが弁護士費用特約付保険に加入していることもあって、12級13号(局部に頑固な神経症状を残すもの)の認定を求めて、静岡地方裁判所に損害賠償請求の訴えを提起した。
担当裁判官は、あらかじめ、この事案については、鑑定をせず、等級は証拠により、自分が判断するとの意思を当事者に表明していた。
当事務所は、主治医のカルテをもとに、Aの治療経過を明らかにし、Aの後遺障害の程度は、痛みの他、しびれも残存し、局部に頑固な神経障害があるものと主張し、C医師作成の画像鑑定書をもとに臨床上の所見とも一致していることを主張した。
A本人の尋問に入る前に、裁判官はA、B 双方に和解案を提示した。
それによると、等級は14級9号を前提にするが、後遺障害慰謝料は12級の裁判所基準(赤本)290万円に近付いた250万円というものであった。
14級の裁判所基準(赤本)による後遺障害の慰謝料は110万円であるので、この点だけをとれば、140万円増額されていた。
しかし、Aが努力して事故後も仕事を維持し、後遺障害の症状固定日以後も賃金がむしろ増加していたので、後遺障害の逸失利益は認められなかった。
裁判所の和解案は、既払金130万円を除いて、BがAに対し330万円を支払えというものであった。
妥協的な和解案であったが、確かに、Aの賃金が減っていないことも考慮し、又、Bの加入しているD損害保険会社が、この和解案を受け入れたので、Aもこれを受諾し、訴訟上の和解が成立した。
最後に
近時、追突事案では、頚椎や腰椎の椎間板ヘルニアの存在を主張しても、交通事故訴訟が増加していることもあって、裁判官は鑑定をしない傾向がある。
鑑定をしないと、静岡自賠責損害調査事務所の判断がベースになることが多く、被害者側専門弁護士は苦戦することになる。
少しでも状況を良くするには、むち打ち症の被害者が、事故当初から、主治医に自分の症状を正確に伝え、カルテに臨床所見を記載してもらう必要がある。
特に、当初、しびれが出ていても、痛みがひどく、しびれのことは主治医に訴えていないことがあるので、しびれも伝えておくことが大切である。
しびれを訴えても、それをカルテに記載しない主治医もいるので注意しなければならない。
画像鑑定がしっかりしていても、裁判所はそれだけで12級13号の上位等級を認めてくれないので、主治医との関係は重要である。
以上